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宇都宮家庭裁判所足利支部 昭和58年(少ハ)3号 決定

少年 M・S(昭三八・一二・二一生)

主文

少年を昭和五九年一一月二〇日まで特別少年院に戻して収容する。

理由

(申請の要旨)

1  少年は、昭和五七年七月二日宇都宮家庭裁判所足利支部において中等少年院送致の決定を受け、多摩少年院に収容され、同五八年七月一八日同少年院を仮退院して宇都宮保護観察所の保護観察に付されたものである。

2  上記仮退院に際して、少年は、犯罪者予防更生法三四条二項所定の事項及び同法三一条三項に基づき関東地方更生保護委員会が定めた、(1)シンナーを吸入しないこと、(2)シンナー仲間など悪友と交際しないこと、(3)仕事について辛抱強く働くこと、(4)毎月保護司を訪問し指導を受けること、の遵守を誓約した。

3  しかるに、少年は、

(1)  昭和五八年七月二六日ころからシンナーを吸引し始め、以後同年一〇月二三日までの間、前後一五回位にわたり、単独で、又は有機溶剤嗜癖の強いA、Bらと共に、上記A宅、自動車内、栃木県内のモーテル等でシンナーの吸引を反覆し、かつ上記の者らと交際を続けていた。

(2)  同年八月末ころから同年一〇月初めころまでの間、暴力団○○連合○○一家○○組の組員Cの下に止宿し、同組織の事務所に相当回数出入りして同組織関係者と交際を続け、更に、同年一〇月二〇日から同月二三日までの間暴力団○○連合○△一家○△組の組員Dの誘いに応じて同組織の事務所(茨城県結城市○○所在)に止宿し、同組織関係者と交際した。

(3)  仮退院後同年九月初めころまでの間、美容室雑役、トビ職見習、バーテン見習として通じて約一ヶ月間働いたのみで、同月四日ころからは無為徒食の生活を続け、しかもこの間上記友人宅、モーテル、暴力団関係者宅等で無断外泊をくり返した。

(4)  仮退院当日担当保護司宅を訪問した後は、同年一〇月二五日までの間上記保護司から再三に亘り来訪するよう指導されたにもかかわらずこれを怠り、かつ宇都宮保護観察所長の呼出し等にも応じなかつた。

のであり、以上の行為は前記一般遵守事項及び特別遵守事項の各号に違反していることは明らかである。4少年の仮退院後の生活態度・行状・保護観察を無視する態度、シンナーへの依存度の高さ、暴力団等不良集団への親和性の深化、少年の保護環境等を考慮すると、このまま保護観察による処遇をもつてしてもその改善更生を図ることは困難であり、再非行の虞が極めて大きい。従つて、この際、少年を少年院に戻して収容し、矯正教育を実施することによつてこれまでの生活態度を反省させ、更生への自覚を促すことが適切な措置であると思料する。

(当裁判所の判断)

1  当審判廷における少年及びM・Hの各陳述、少年及びM・Hの保護観察官に対する各質問調書謄本、法務事務官作成の少年院仮退院許可決定書謄本並びに少年調査記録を総合すると、「申請の要旨」1ないし3記載の各事実が認められる。なお、少年は、仮退院後の昭和五八年七月二六日ころから同年一〇月二三日までの間、単独で、又はシンナー常習者であるA、Bらと共にセメダインうすめ液、ボンド等をくり返し吸引した旨自認しており、M・Hの供述もこれを裏付けるものであつて、少年の吸引した溶剤が毒物及び劇物取締法第三条の三に定める毒物又は劇物に当たるか否かは明らかでないけれども、少年の上記行為はいわゆるシンナー類の吸入に該当するものといわざるを得ない。

上記認定の各事実に従えば、少年が仮退院後法定遵守事項及び前記特別遵守事項に違反し、これを遵守しなかつたことは明らかである。

2  少年は、昭和五六年七月及び同五七年七月の二回に亘り、当庁において毒物及び劇物取締法違反で中等少年院送致の決定を受け、いずれも矯正教育を受けたものであるが、上記のとおり、本件仮退院直後からシンナー仲間との交遊を重ねてきたのであつて、この間むしろシンナーへの依存傾向を一層強めてきている。また、仮退院後いくらも稼働しないまま徒遊の日を過ごし各所を泊り歩く等、基本的生活態度も何ら改善されず、就労意欲も窺えない状況にある。少年のこれまでの非行は自己の劣等感や他者へのひがみに基因する点が大きいと考えられるが、現時点では疎外感がさらに強固となり、規制に対する反発を強め、暴力団関係者らと積極的に接触・交遊する等反社会的価値感に迎合しようとする態度も顕著となつてきている。

一方、少年の保護環境を検討するに、少年には両親が健在であり、本件仮退院後その更生のために両親において尽力した様子が窺えるが、少年がシンナー吸入の際父親に対し木刀を持つてあばれ、又、母親に対しては勤務先まで金の無心に訪れるという状況であり、もはや父母の指導をもつて少年の生活の改善を図ることは期待しえない。

又は、仮退院後の保護観察所及び担当保護司からの再三の働きかけに対しても、少年は無視する態度を取り続けており、このまま保護観察による処遇を継続しても軌道に乗せることは困難といわざるを得ない。

3  以上の次第で、現状のままでは少年の更生は望み難く、将来再非行を重ねる虞が大きいので、この際少年を特別少年院に戻して収容し、改めて積極的な矯正教育を行うことが必要であると考える。なお、収容期間については、上記の事情に照らしこの決定の日から昭和五九年一一月二〇日までとすることが相当である。

よつて、犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 安間龍彦)

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